【本の感想】「ファイト」(佐藤賢一):闘い続けたレジェンドボクサー、その意思は今もまだ強く。
僕は、本が好きです。
好きなものについての情報を得たい時、気になった人について知りたい時、特定の分野について何かを学びたい時、ものすごく退屈な時、公共交通機関を使って一人で移動する時。
その時その時で、僕の欲求や時間をしっかりと満たしてくれるものの一つが、本なのです。
しかし、読書マニアと呼ばれるほど本は読みません。ものすごく読むのが早いわけでもありません。
だいたい月に活字本を3、4冊程度です。
ジャンルも、小説、ビジネス書、専門書など、特にこだわりはなく気になったものを読みます。雑誌やインターネットで経済記事なども読みます。
本に触れ合っているのはそのレベルですから、「私は読書家です。」とは到底名乗れません。しかし、「本が好きです。」とは自信を持って言えます。
そんな本好きの私は、大学の卒業時期だった今年の3月からもっと本が好きになりました。
おそらく、社会人になって一人の時間が余計に増えた、まだまだ未熟者の僕は色々なことを学びたかったといったことが、理由として挙げられるでしょう。
そこで、好きなボクシングやクワガタの話題で埋め尽くしてきたこのブログに、そろそろ本のことも取り上げて行きたいなあと思うようになりました。
そして、どうせなら、僕が読んで、良いと思った本を紹介して、少しだけ感想をお伝えしたいと思いました。僕自身そうなのですが、本を読み終えた後って、誰かとその内容を共有したくなりませんか?しかも、その本に対しての印象が強ければ強いほど、です。
よって、本については主にそのようなことを書いていく予定です。
その本についてご興味ある方や感想を知りたい方など、立派なことなど何も述べられませんが、一素人の意見として、ぜひお付き合いください。
ああ、なんで、ボクシングなんだ。なんで、他のスポーツじゃない。ベースボールでも、フットボールでも、ああだから、こうだからと、うまく言い訳できるじゃないか。負けたところでボクシングほど、恥をかかずに済むじゃないか。
「ファイト」(8ページより)
この言葉は、本書の中に出てくる言葉です。
ボクシングの試合をご経験の方は、この気持ち多少なりともわかるのではないでしょうか。
「ファイト」という本を僕が見つけたのは、お目当の本を探すついでに何かいい本はないかなあと、本屋さんをフラフラしていた時です。
新刊コーナーにて、ふと、今にも声が届きそうでまた何かを訴えている表情のモハメド・アリが視界に飛び込んできました。
「おお!なんだ、この本は!」
ボクシングファンである僕は、思わずそれが描かれた本を手に取ってまじまじと見入ってしまいました。その後パラパラと数ページめくって読んで見たのですが、第一印象から買うことは決まっていたようなものでしたね。
実はその時より一年ほど前に、モハメド・アリは亡くなっていました。
全世界のボクシング関係者、ボクシングファンが驚き、悲しみました。僕も世代こそ全く違うものの、モハメド・アリという名前は当然知っていたので驚きました。
世界の一流選手のみならず、人種差別や政府と真っ向から立ち向かったことで、ボクシング界以外からも大きな注目を集めていました。
「もう二度とこんな人は出てこないだろう。」
そう言われるほどの選手が、過去に繰り広げた激闘の中から、四試合を取り上げ、それぞれの試合中の心情を事細かに記していく。
それが本書です。
ボクシングをご経験の方は共感しながら、未経験の方は試合中のボクサーの葛藤を知りながら読めると思います。
僕も面白く読ませていただきました。
しかし、良かったところだけでなく気になったところもありました。
そういった点も踏まえて、もう少し踏み込んで感想を述べていきたいと思います。
※基本的には、核心的なネタバレはしていませんが、内容に触れている部分もありますので、ここから先はご自分でご判断ください。
良かったところ
・表紙が良い!
まず、冒頭にも述べましたが、表紙のインパクトがかなりあります。
これは、何を叫んでいるのでしょうね。
いつものようにあの軽快なリズムで相手をこき下ろしているのか、「俺は美しい!俺は最高だ!」と自分に酔いしれいているのか。あるいは、あの名言「Float like a butterfly, sting like a bee!Ahhh!(蝶のように舞い、蜂のように刺す)」と仲間と言い合っているところでしょうか。
表情からも、自分の言葉をなんとしてでも伝えたいという思いが伝わってきます。
ホント映像で見たことがあるものとそっくりです。
「装画 寺西晃」とあるので、これを書いたのは、その方かと。
読んだ後も、本を部屋に飾りインテリアデザインとしても使えそうです。
そう思うと、買わずにはいられなくなった僕は、この本と出会った第一印象から買わずにはいられなくなったのでした。
・新しいボクシングの広め方へ
物語は、主人公モハメド・アリのプロ通算61戦の内、特に激闘だった4戦(ソニー・リストン第一戦、ジョー・フレージャー第一戦、ジョージ・フォアマン戦、ラリー・ホームズ戦)の試合内容について描かれています。
しかも、ボクシング雑誌やニュース記事に掲載されているレベルの詳細ではありません。
「追いかけてくる左フック、左右のワンツー、左でスリー、それから右フック。その全てを左回り、左回り、ダンス、ダンスで外してやる。」(「ファイト」67ページより)
「顎に鉄の塊が落ちた!そう思わせたのは、フォアマンの右ストレートだった。意識は飛ばなかったが、その分だけダメージの大きさが自覚された。」(「ファイト」202ページより)
試合中の気持ちについても葛藤が描かれているのに加えて、パンチ、ディフェンス、ステップなどの一つ一つの動作まで、3分間各ラウンドずつみっちりと述べられていました。
実のところモハメド・アリ本人は、3分間の中で書かれている内容ほど細かくは考えてはいなかったでしょうけど、ジャブやコンパクトなパンチが意外と厄介であることや、密着すれば相手の呼吸から疲れからがわかることなど、内容自体は納得できる場面が多くありました。
また、ボクシング未経験の方でも、ボクサーの気持ちなどを知る機会というのは多くないはずですから、駆け引きなどを楽しんでいただけると思います。しかも、ボクサー史上最強との呼び声高い選手の。
いや、むしろ未経験の方こそ読んで欲しいと思いました。
なぜなら、日本のスポーツの中で人気のものは、高校生までの部活動の中でも人気の競技が多く、その理由は見る人たちがそのスポーツを経験したことがあることにより生まれる共感性が大きいと思っているからです。
日本だったら、野球やサッカー、テニス、バスケを少々という感じで消化しょうか。
知っている、やったことがある、となればそのプロ選手がする動きのすごさに気づくことができます。それと同じで、どんなボクシングの試合でもやはり経験者の方が興奮します。
しかし、ボクシングで経験するということは、試合やスパーリングしろということになります。そんなの誰にでも、誘うわけには行きません。
そこで、この本が登場するわけです。
本人が書いたわけではないので、もちろん確実ではありませんが、述べられている試合前、試合中の心情に特に違和感は感じませんでした。
よって、この本を読むとボクサーの気持ちがすこしでもわかるようになると僕は思います。
それによって、ボクシングを実際に映像で見るときに、少しでも共感しがら見ていただけるのではないでしょうか。
気になったところ(※少しネタバレ)
ここからは少し否定的な意見も述べていきたいと思います。
また、ネタバレと捉えられる方もいるかもしれませんので、この章は読むか読まないかはご判断ください。
・カタカナが多い
この小説には、一つ一つの動作の詳細についても詳しく書かれている、と述べましたが、実はこれが読みにくかったです。本当に、読みにくかったです。
先ほどは、それについて肯定的な意見を述べているようにも見えましたが、それは試合中の駆け引きや試合前のプレッシャーについての精神面が述べられているのが面白いと言いたかっただけで、試合中の全ての動きを記してくれてありがとう、という意味ではないのです。
確かに、四試合の試合中の内容だけで、300ページ程の小説を書こうと思ったら、何か色々な要素を敷き詰めなければなりませんが、一つ一つの動作を全て書き記すのは正直読んでいてしんどいです。
一応、ボクシング経験はありますが、それでも活字だけでは、全く想像できませんでした。ということは、未経験者はもっと想像しにくいと思われます。
逆に、それらの試合を見たことがある方、印象に残っていて覚えている方は意外とすらすらと頭に入ってくるかもしれません。
しかし、僕を含めてそれらの試合を見たことない方は、難しいのではないでしょうか。
それでも、なんかすごい展開が繰り広げられてるんだなあ、という様子はモハメド・アリの心の(時には発する)言葉でわかるので、興奮は味わえるはずです。
また、四試合ともYouTubeで英語で検索するなどして探せば見つかるので、動画で実際に見るのもいいかもしれませんね。というか、僕は見たくなったので見ました笑。他の方も読み終えた後、YouTubeで検索しちゃってるかもしれませんよ。
・対戦相手の心情も知りたくなった
これは欲を言えばなのですが、モハメド・アリのそれぞれ四人の対戦相手の心情も同時平行で教えてくれると、さらに面白かったと思いました。
基本的にモハメド・アリ視点なので、ほとんどが強気な口調です。しかし、珍しく弱音を吐いている時もあります。
強気な時、弱気な時、押している時、押されている時などに、一方の対戦相手はどう思っていたのか。
おそらく、ジョー・フレージャー選手とラリー・ホームズ選手の試合では、両選手で押している時の心情が異なるはずです。いや、確実に、だと思います。
そういう違いが、四試合もあれば見つけられるので、いろんな人になり切らなければならないので筆者は大変かもしれませんが、動きを細かく記すだけよりはかなり面白かったと思います。
おすすめの読者
以上を踏まえまして、特に次のような人達におすすめしたい思います。
・ボクサーの試合に向けての気持ちをもっと知りたい人
・本を読むのが好きで、ボクシング(格闘技)の試合も見てみたい人
・モハメド・アリが気になる人
まとめ
僕は、元々ボクシングファンでもあり、モハメド・アリ好きでもあるため、この本と出会った時のインパクトはかなり大きく、中身もふさわしい内容だったと思います。
個人的には、全四章(全四試合)の0ラウンド目と第四章(第四試合)が好きでした。
0ラウンド目は文字通り試合前なので、基本的に心理面しか描かれておらず、弱音を吐いている一面も見れたり、試合以外での活動に関して意見していたりするからです。
やはり、この小説はあのリングの中でも外でも言葉と身体で闘っていた主人公の心情が描かれていることに最大の楽しみがあります。
そして、その心の振れ幅が最も大きかったのが、第四試合目だったと思います。
第一試合も初の世界王者獲得した試合とだけあって面白かったのですが、最後から2番目のページに以下のやりとりがあり、それがこの小説の中で最も好きなシーンなので第四試合を最もお気に入りの章とします。
「あんたのことは好きなんだ。なあ、モハメド、本当に。」
「好きなのに、殴るのかよ。」
かっこいいなあ。
そして、最後のページに続く主人公の言葉が、いつの日かまた、この世界に生きる僕たちに向けて、何かしらの喝を入れに来るのではないかと予感させられました。
あの表情のままで。
ではでは。